忘れられそうにない
今年の２月に亡くなったきみのことが、忘れられそうにありません。
従兄の家で飼えなくなってしまったため、我が家にやってきたきみは、当時４歳。
とにかく臆病で、でも好奇心旺盛な犬でした。
いたずら好きで、妙にかしこく、
足で開けるゴミ箱も、手で押して開けるゴミ箱もすぐに覚えてしまい、10歳になってもゴミ箱あさりは趣味のひとつでしたね。
中３の夏休み、父と弟と妹がきみを連れて浜へ散歩に行ったとき。
近くにいたグループのロケット花火に驚いたきみは、リードを振り切って逃げてしまいました。
小学生だった妹は、とても落ち込んでいました。
次の朝、弟と浜へ探しに行きましたが、きみは見つかりませんでした。
その日の昼、母と妹が保健所へ行って私が一人で留守番をしていると、驚いたことにきみは自力で帰ってきましたね。
車で行けば10分足らずの距離にある浜でしたが、きみにとっては大冒険だったのでしょう。
疲れきっているのに、きみの目は本当に自慢気に輝いていました。
高校を卒業して、少しした時。
何の目標もなくただ家から抜け出したくて、私は一人暮らしをはじめました。
たまに家に帰ると、きみは力いっぱい歓迎してくれました。
でも、どこかよそよそしい態度でしたね。
きみが８歳になると、おしっこが出にくくなることがありました。
家の中でどこでもおしっこを出そうとがんばるから、きみはおむつを履かされました。
間もなく、尿道炎か何かと診断され去勢手術を受けました。
その後はおしっこの調節がうまくいかなくて、やっぱりおむつは常備でした。
私は実家に戻り、またきみのお世話をはじめました。
きみはお腹を壊したり元気になったりを繰り返し、今年に入りすぐに調子を悪くしました。
２月になって元気になったと思ったら、突然起き上がれなくなってしまいました。
何度も「もうだめかも」を繰り返しては元気になってきましたが、
その時ばかりは母と
「今度こそだめだね…」と覚悟を決めました。
身動きができなくなったきみを、家族が寝た後は私が付きっきりで見ていました。
お水のおかわりを持ってこようと私が離れると、きみは聞いたことがないような悲痛な声で「フウゥ～ン、フウゥ～ン」と鳴きました。
「はいはい、ここにいますよ」と戻ると、きみの目が一点を見つめて動かないことに気がつきました。
その時には目が見えなくなっていたのですね。
次の日、夜12時までのバイトを終えて帰ると、きみはまだ生きようと頑張っていました。
どう見ても"今夜が峠"でしたが、病院に連れていけばもう帰ってこないだろうと父も母も解っていたので、自宅で看取ることになったのです。
しかし夜は私一人でつきっきり。バイトの疲れもあって、おでこをくっつけてうたたねをしていると、突然きみが「ヒィン…ヒィ…！」と悲鳴をあげました。
そしてそのまま痙攣すると、ゆっくり力尽きていったのです。
きっと私がバイトから帰ってくるまで、待っていてくれたんですよね。
でも日を跨いだため、妹の誕生日がきみの命日になりました。
妹はきみがまた元気になると思っていたそうで、本当にショックを受けていました。
後日見た夢で、きみは妹のことを気にしていましたね。
今でもたまに夢で会いに来てくれますが、そのうち夢の中でさえ、きみの頭を撫でる感触を忘れてしまうのでしょうか。
きみの声や温もりを忘れてしまっても、
きみとのたくさんの思い出は、忘れられそうにありません。
きみがいたから、私はいくつも勇気をもらった。
本当に 本当にありがとう。
思い出を忘れる必要なんてないよ。
声や感触を忘れちゃったとしても、思い出は忘れるものじゃない。
時々は思い出して亡くなっちゃった子の事を想うのも大事じゃないかな。
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