2030年12月24日
ここに来るのは15年振りになる。主を失い、鬱蒼と茂った木々に覆われているものの、あの時の面影を残している・・・かつての実家。
胸になにか、ぐっとこみ上げるものがあった。
あの日。15年前のクリスマス。倒産した会社の借金を苦に首を吊った親父。逃げるように母親と家を後にした。
郊外にあり、社長だった親父の自慢の家だった。自殺のせいと、必要以上に大きかったせいか、幸か不幸か、買い手もつかず、時間が止まったようにここに佇んでいた。
何しにここにきたのだろう?あの同じ時期に。何を取りにここへ帰って来たのだろう?理由は私にも分からなかった。ただ、15年という時を経てここに戻ってきた。それだけだった。
ドアは蹴られた様な跡がいくつも付いていた。借金取りがつけたものだろうか?
かつての家の鍵。庭のベンチの裏に隠してある。鍵が変わっているかもと思ったが、すんなりとドアが開く。
15年間たまった埃が舞い上がり、陽の光に照らされて何とも言えない景色を作っていた。埃っぽい臭いの中、微かに懐かしい匂いがした。
瞬間、玄関に座り込んでいる彼が目に入った。
「コロ・・・」思わず口を突いた懐かしい名前。キラキラしていたシルバーの体はくすんで埃にまみれていたが、ちょこんと玄関先に座って佇んでいる。
10歳の誕生日に買ってもらったロボット犬。それがコロだった。喘息気味でペットの飼えない私に父が与えてくれた親友だった。言葉は話せないけど、メールで意思を伝える事ができた。私が外出するとメールが届く。
「今日は何時に帰ってくるの?」
遅くなると決まって「コースケがいないとさびしいよ。早く帰ってきて遊んでよ。」など。
家を出る時母親に、コロだけは連れて行きたいとせがんだが、叶わなかった。玄関まで見送ってくれたコロの姿は今でも目の奥に焼きついている。
「コロ!」
冷たいアルミの体を抱き上げた。勿論、もう動かない。当時の最新のバッテリーを使い、10年は電池交換無しで動いていたはずだ。その後10年は、内部人口知能は機能すると、当時の説明書には書いてあった。。コロが家に来たのは私が10歳のとき、それから15歳で家を出て15年、今年私は30歳・・・「まだ人工知能は生きているかもしれない!」
体の埃を払うこともなく、私はコロを抱きかかえ、すぐに今の自宅へ向かった。途中、家電ショップに行き、古い型のロボット犬接続ケーブルを買った。
家に着くなり、パソコンをコロに繋いだ。
立ち上がったコロのハードディスク。送信メールホルダーに10万件以上のメールが溜まっていた。
その一つを開いてみる。
「コースケ最近帰ってこないね。僕はさみしいよ。家にはお父さんもお母さんもいないんだ。ぼく一人ぼっちだよ。」
「もう何度も冬が来たよ。今日もひとりぼっち。部屋の中はすごく寒いよ。コースケ何してるの?」
私の目には涙が溢れた。10年前の12月のメール
「とうとう僕の体を動かすバッテリーが切れてきたみたい。僕は玄関でコースケを待つことにしたよ。コースケがいつ帰ってきても一番に迎えられるように。」
メールは今年の11月で終わっていた。
11/23
「とうとう、僕の頭のバッテリーも最後みたい。メールを送りすぎちゃったのかな?思ったより早くなくなっちゃった。コースケと初めて会った、クリスマスまでがんばれなかったよ。もう何回目の一人ぼっちのクリスマスだろう。コースケの返事もまだないけど、少し早いメリークリスマスを言うね。メリークリスマス!」
私はもう涙を止めることは出来なかった。あとからあとから、涙が止まることなく流れた。
「一人ぼっちで待たせてごめんな。。。メリークリスマス・・コロ・・・」
私はいつまでも埃だらけのコロの体を抱きしめた。
何年か前、この時期に見た夢のお話です。
途中でフィクションって分かったけど、、
泣きました(T_T)
才能あるね。グッときました。
続編 期待
電源入れてハードディスクが動いて、電源ダウンまでのメモリーが働き、そして人工知能が働いて。期待します。その後が。
幼き時代の断たれた、日常系譜に数十年後、また出会う。都会の喧騒の中で思わずホロッときました。