彼女の本音
命
^5/15-07:53
中学生の頃から音楽が大好きだった僕は、仲間と組んだバンドに明け暮れ勉強もせず、当時付き合っていた彼女も放ったらかし…。そのせいで高校受験も失敗し、バイトをしながらメジャーデビューを夢見てた19歳。
仲間と集まり次のライブで演奏する曲についてファミレスで話してたとき彼女(美加)の携帯から電話。3度目の電話で受けた相手は彼女の母親であった。
「美加が、美加が…倒れた」と、病院に駆けつけた僕に浴びせられる彼女の両親の氷ついた様な冷たい視線。
父親からの一言
「お前のような職についていない奴と付き合い、不安と将来の心配から考え過ぎて倒れた!この1年間反対し続けてきたが、もう別れてくれ!」
途方に暮れた僕はあまりに突然過ぎて返す言葉もなかった。
次の日から検査漬けの美加。父親の言葉で病院に行く勇気もなかった僕。
そして10日ぐらいたった頃に鳴った電話は、またも母親からであった。
「美加のお見舞いにきて下さい。」と。
飛んで病院についた僕に笑顔の美加は、
「ごめん心配かけて。」
返事もしないうちに
「検査の結果、乳ガンで転移してるみたいで余命は長くない…」
呆然としている僕に美加は、
「和くん私のこと初めて心配してくれたね。少し嬉しい」と言った。
頭の中が真っ白になり、その後に何を話したかもわからぬまま家に帰ってきた俺は、死の淵に立たされた美加が、「初めて心配してくれて少し嬉しい」と言ったことを思い、自分のしてきたことに腹が立ち、情けなくて、悔しくて、哀しくて、何より彼女が死んでしまうと思うとずっと涙が止まらなかった。
思い返すと、
いつも笑顔の美加…
口ゲンカをしても、さっきはゴメンね。と悪くないときでも言ってくれる美加…
頭も良く、気が利き、思いやりのある美加…
悪いニュースを見て
「今の世の中を変えるにはまず教育を変え、子供達が大人になったときに良い世の中にしてくれる様に。」と少しでも社会に貢献と教師を目指し国立大学に行き目標に向かう美加…
考えると、こんな何も取り柄の無い自分とよくも付き合ってくれてると思い始めた。
このままでは父親の言うとおりだと。本当に泣きたいのは美加だと…
泣いてられない!
美加のために!自分のために!と覚悟を決めた僕は次の日にバンドを抜けることを仲間に伝え、毎日お見舞いに行きながら、職を探した。
ようやく就職できたに
「おめでとう!」
と満面の笑顔で言ってくれた美加。
「好きな歌を唄い楽しんでいる和くんのライブをまた見たいからバンドを続けて」
と僕のことを気づかい言ってくれた美加。
今になって気付いた…
大きな存在。
かけがえのない存在。
大好きな彼女。
それから1ヵ月ぐらいたったある日、病室で父親に出会った。
就職をし、歌も止めたことを美加が伝えていたのだが、
「もう遅い…私の前から消えてくれ。」
と言った。
病室から出て、ドアの前に立ちすくんでいた時、病室から鳴きながらの美加が父親に対し、
「たとえお父さんでも許さない…絶対に許さないからね!和くんは美加にとって大切な人。もっと良く見て…人として、親として。」
「美加の病気は運命…和くんのせいじゃない!誰かのせいにしたいのは解るけど美加の最愛の人のせいだけにはしないで!」
「もし誰かのせいにしてお父さんがラクになるなら、それは私のせいにして!」と…。
俺は大人げなく病室の前で泣いた。泣き崩れた。それを見た母親も泣きながら俺にゴメンねゴメンねと謝ってくれた。
「1人娘だとはいえ、私達夫婦のしたことを許して下さい。」と。
母親に連れられ病室に戻ると父親の肩も揺れていた。
みんな涙が止まらなかった。少し時間がたったとき、恥ずかしそうにハニカミながら美加は、
「ホントごめんね。こんな両親とこんな私で。和くんのことは大好きだよ誰にも負けないぐらい!」
「けど、もう十分!幸せだったから…これ以上付き合ってもらうと死ぬのが怖くなるし、死んだ後和くんが違う女性と付き合うことに嫉妬してしまいそうだから…生きているうちに別れよ」と。
それは彼女がついた最初で最後の"うそ"でした。
だから言いました。
「別れたくない。美加のそばにいたいから愛してるから」と。
精一杯の愛を込めて。
美加は言いました。
震えた声で、
「ありがとう」
それから13日後に彼女は息を引き取りました。
まるで天使が寝ているかの様に…。
葬儀の際、親類や友人知人、全ての人が両親と僕の意向を聞いてくださり、泣くことを我慢し、涙は見せずに"笑顔"でお別れをしました。
葬儀の片付けの際、彼女の父親からの話で、
「あの時は本当に辛く当たって苦しめたね。すまなかった。
美加が私に反抗したのは、19年育てあの時初めてだったよ…」と。
短い人生だったけど、色々なたくさんの人たちに好かれた美加は素直に生き、だからこそ愛され、人々に"ぬくもり"を与えてくれる本当に天使みたいな人でした。
彼女に出会えて本当に良かった。
人を愛することを教えてくれた僕の自慢の彼女。
IDfIyhu5DFvOQ
D703i
▼ソーシャルボタンを押して、友達にも教えてあげよう。
▼泣ける、感動したら
□@カキコミをする
H掲示板TOP