儚い恋
勇希
4/13-20:46
俺の初恋は、中学生の時だった。
実穂という名の、すらりと手足の長い、気さくな女だった。
モテるくせに気取らない。美人なのに、性格いい。
でも、実穂には彼氏がいた。
野球部のキャプテンで、爽やか系の好青年。
シルバーピアスを付ける、いわゆる不良だった俺に彼女は振り向いてくれない。
そんなのわかってた。
実穂と、彼氏である恵介は学校でも有名なカップル。野球部のマネージャーと野球部のキャプテンはそれはそれはお似合いで。
「沢田君だよね？」
雨の音がうるさかったある日。
俺は、図書室で外を眺めていた。
すると、実穂の柔らかい声が俺の耳に響いた。
「あっ、私、二組の新垣実穂。わかる？」
「あぁ。彼氏？
廣瀬と付き合ってるんだろ？早く帰れば」
「恵？あっ、野球の練習だって。こんな大雨なのにね。あの人、私より野球が好きなんだよ」
「新垣は好きじゃないの？」
「大好きだけど、何か恵介の気持ちがわかんないの。どうなのかな？」
彼女はやっぱり、彼が好きだった。
廣瀬恵介が好きだ。
でも、彼女がこうして俺に話しかけるのには、きっと意味がある、と思った。
遊びで付き合ってって言われてもよかった。
廣瀬を妬かせたいと、言ってもよかった。
側にいないよりは、実穂の側に居たかったから。
なんだよ。いきない。
それ以来、実穂は俺とよく話すようになった。それでも、実穂は何も言わず、笑っていた。
廣瀬とは、別れて、沢田と付き合ってるという噂が立っても、何故か喜べない。
彼女はまだ、廣瀬が好きだと、俺は知っていたから。
勇ちゃん、私と、本気で付き合って下さい。
いいよ。
彼女は廣瀬と別れ、俺と付き合った。
でも、こいつはまだ廣瀬が好きだ。
わかる。男の勘？
「なぁ、新垣。お前、廣瀬の事、まだ好きだろう？」
「えっ違うよ。私には勇ちゃんだ…」
「行けよ。本当の気持ち、ちゃんと廣瀬に伝えろよ。だからって、俺は実穂を憎んだりしない。
本気で俺は好きだった。」
実穂は泣いた。
「行けよ」
歩き出す実穂は振り返り、
「ありがとう」
と言った。
実穂…、本気で好きだった。遊びなんかじゃなくて、本気。
手に入らなかった君の心は、あいつによって簡単に奪われた。
もしかしたら届くのかもしれない。
それでも手を伸ばしたりしない。
君には、あいつの代わりじゃない、素の俺を好きになって欲しかったから。
実穂、幸せに。
幸せになれ。
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